2005年12月10日

モニタリング管理システムの功罪

最近、流行のモニタリング管理システムとは何か?

まず、簡単なものとして、モニタリング報告書をパソコン上から打てるというものがある。
僕が現役にモニターの時代は、複写式の紙にボールペンで書いていたので、何度も何度も、同じ言葉を書かないといけなかった。

例えば、「治験課題名」はモニタリング報告書に記載しないといけないので、毎回、同じ言葉を書いていた。
それが、このモニタリング管理システムなら、プルダウン式で選択できる。
これはありがたい機能だ。(入社してから、そういうモニタリング報告書しか使ったことがない世代の人には分からないと思いますが。)

さらに、このモニタリング報告書を記載する機能に、いろんな機能が追加されている。

例えば、治験を開始する時に当局へ届け出る「治験届」作成機能。
或いは、治験薬を出庫するための「治験出庫依頼伝票」作成機能。
そして、最も、このモニタリング管理システムの売りは、「アラーム」機能、或いは「歯止め」機能とも言うべきものだろう。

これは、例えば、治験の契約が済んでいない病院へ治験薬を出庫しようと「治験薬出庫依頼伝票」を発行しようとしても、できないようにシステム上、なっている。

だから、昔なら、契約が未締結の病院へ治験薬を持っていく、ということはシステムの機能上有りえない、というわけだ。

これだけ聞くと、なかなか良さそうだが、やはり問題も有る。


モニタリング管理システムの問題点とは?

まず第一に挙げられるのが、モニタリング内容の詳細が分かり難くなったことだ。
例えば「有害事象有り」とだけ、パソコン上から、チェックボタンを押すだけ。

で、その内容は? というと記載されていなかったりする。

もちろん、それらの詳細が書けるようにモニタリング管理システムには『特記事項欄』が有るので、普通のモニターなら、そこに有害事象の詳細を書いてくれる。

しかし、チェックボタンにチェックマークをつけるだけで済んでしまうモニタリング管理システムでは、そこをスルーさせる人が少なからずいる。

有害事象に限らない。

チェック欄にチェックを入れて、有用な情報を記載されなくなったという傾向が有る。
また、そのためだけでもないが、まともな文章をコンパクトに書く能力も低下傾向にある。

チェックボタンやプルダウンメニューという便利な機能がついた分、ひとによっては、それがデメリットになっている。

また、モニタリング報告書をチェックする上司やモニタリング報告書点検者も、画面上では見にくいためか、以前の紙のモニタリング報告書の時よりも、チェックが甘くなっている。
そして、もっと恐いのは、モニターが詳細を書かなくなってきた分、危険を早期に察知しにくくなったという点もある。


そして、モニタリング管理システムの一番悩ましい点は、どこまでバリデーションするかということだ。
いわゆるFDAの21CFR Part11対応だ。

一番、手っ取り早いのは(と言っても、結構、手っ取り早く無い)、21CFR Part11のコンサルティングを生業としている業者に入ってもらうことだ。ただし、料金は高い。

で、そのコンサル業者が入ったとしても、最終的に、いろんなレベルで決定するのは製薬会社になるので、これまた人手がかかる。

今のところ、日本中、誰も、本質的にFDAの21CFR Part11対応を分かっていないので(トーゼン僕も含めて)、自社でプロジェクトチームを作ってやってもいい。

各種機器のバリデーションにしろ、治験における統計解析システムのバリデーションにしろ、基準では「何をしろ」とは書いてあるが、「どこまでしろ」というのは、書いていないのがほとんどだ。

だから、各社で「我が社では、このような手順で、このようにバリデートして、みんなには、こうやって教育して、こんな記録を残しています。」とやってもいいだろう。

つまり、本質的に治験のSOPと同じなのだ。

GCPでは、治験依頼者や医療機関のIRBはSOPを作りなさい、と言ってはいるが、どこまで、どのようにSOPを作れとは書いてない。

それぞれの会社で、知恵を出し合って、決めればいいと思う。

他社のことなんか、気にしなくていい。

他社のことを気にしている暇が有ったら、自社のSOPをどのようにして、各自に守らせるかを考えたほうが、ずっと有意義だ。


PC上で動くモニタリング管理システムなので、一番の弱点はPCが使えない時にはモニタリング報告書を書けないということだ。
僕がモニターをやっていた時は、紙ベースだったので、出張帰りの電車の中でも書くことができた。
まぁ、今でも、電車の中でやれないことはないが、ちょっと大変だ。

そして、最も恐ろしい弱点は、サーバーがクラッシュした場合だ。
通常は、そのために定期的にバックアップを別のサーバーに保存する必要がある。

また、承認申請後の実地調査や書面調査では、プリントアウトしておかないということだ。
総合機構の人が、いちいち、モニタリング管理システムにログインするのは大変だ。

しかし、こうも考えることができる。

総合機構のPCから、インターネット経由で(或いは、専用回線で)各申請者のモニタリング管理システムを覗くことができる、ということだ。

「そんなアホな!」・・・・・・ですよね、今、現在では。

でも、将来的にも絶対に無いかというと、僕は、そうは言い切れないと思う。


PC上でモニタリング報告書を書けるのは便利だ。
しかし、どんな便利さも常に危険とも隣り合わせになっている。

まず、アラームが出過ぎるために、そのアラームに麻痺するということがある。
そもそも毎日のようにアラームが出ること事態が問題なのだが、さらにそれを通り越して、アラーム自体に麻痺してしまうという人もいる。

こうなると、小さなアラームも大きなアラームも関係無い。
『治験責任医師の履歴書を入手していない』というアラームと『重篤な有害事象の報告が出ていない』が、全く同一レベルで無視される。
これは恐い。

また、このモニタリング管理システムに頼りすぎるようになると、段取り力や判断力、治験の流れの把握が弱くなる可能性も有る。

もちろん、モニタリング管理システムは便利なのだ。
便利が故に、危険なのだ。

そこをきちんと理解させた上で、モニタリング管理システムを運用する必要が有る。


どんなPC上のシステムでもそうなのだが、『一覧性』では、紙に負ける。

ざあ〜〜と、治験の流れを見る時に、紙ベースのモニタリング報告書を斜め読みしながら、指でめくったほうが、今のところ、まだ、早い。
(そのうちに、そのようなソフトも出てくるかもしれないが。)

ある施設の治験参加者全員の流れを把握するような場合は、特に紙のほうがやりやすい。
だから、モニタリング管理システムで入力したモニタリング報告書も、必ず、プリントアウトしておく必要がある。

で、ここで問題となるのが、印刷した時のモニタリング報告書のデザインだ。

もし、紙ベースでやっていたら、ここは読みにくいから、こうしたいとか、ここは重要だから二重枠にしよう、ということが簡単に出来る。

しかし、モニタリング管理システムではやれないことはないが、紙に比べてはるかに時間とお金がかかる。

だから、このシステムを導入する時には、慎重に検討した上で、デザインをシステム設計屋さんに頼むのだが、運用してみて初めて分かる問題も有る。

ここがもっと安く、手早く対応できたら、どんなに素晴らしいか、と思うのだが。


『モニタリング管理システムの功罪』の最後として、利点をあげよう。

使っているシステムにもよるが、大抵のモニタリング管理システムには一覧表を打ち出す機能がついている。

これは便利だ。

たとえば、「施設に連絡しないといけない副作用情報」を全施設に連絡したかどうかの確認などは、この一覧表機能で確認できる。

また、IRBの開催日時等、『治験総括報告書』に別添でつける一覧表も、昔のように紙で書いていたら、それをいちいち拾って書かないといけないが、この機能を使うと、これまたはるかに便利だ。

こうして、一覧表にするとか、あるリクエストに対して、それに該当する施設だけ抽出するなどのデータベース機能はとても便利だ。

ただし、これとても、モニターが全員、きちんと入力していないと意味が無い。

どんなツールを使うにしても、最後は、やっぱりモニター個人の意識に戻るのだ。

だからこそ、どんなに優秀なツールやシステムよりも、優秀な人材を採用するほうが、会社にとっては計り知れないメリットが有る。

機械はあくまでも機械であり、人間の補助をするだけだ。
機械が優秀な人間にとって代わりになることはない。

それだけは覚えておこう。
posted by ホーライ at 08:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 治験の問題点 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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